#1. やる気スイッチを押した one → an → a の衝撃![2023.07配信]

 私が補講塾で英語を教えていた頃、急遽代講で呼ばれたクラスがあって、ノートも持たずにやってきて授業中にゲームをして講師に絡む生徒3人と出会いました。教室へ行ってみると「今さら英語なんてやったってなあ…俺たちアタマ悪いし」と言って、ゲームしながらお菓子食べてる…。しばらく雑談をしていると、生徒の1人が突然「なんで a と an があるのか教えて」と言ってきたので、このことを教えました。するとどういうわけか、彼らは「俺、本当は◯◯高校へ行きたいんだ。間に合うかな。」と口々に言い、ワークを開いて問題を解き始めました。そして次に授業に入ったとき(担当にされてしまった)、彼らは英単語をたくさん書いたノートを持ってきました。そんな思い出があり、このテーマを最初に選びました!


 さて、本題です。 「不定冠詞 a と an の使い分けについて教えてください」と言われたら、あなたはどのように説明するでしょうか。

 「通常は a で、後続の単語が母音で始まる場合に an になる」、という説明が一般的なのではないかと思います。また、その理由について、「英語は母音の連続を避ける傾向があるから」、と説明されるのをよく見かけますよね。つまり、現代英語において、a を基本におき、母音連続回避のための n 付加説 (a + n → an) で説明されることが多いのです。 

 ところが、この現象を歴史的な視点から紐解くと、基本は an で、a は子音連続回避のために n が脱落した形 (an – n → a) 、と考えることの方が自然です。というのは、「1つの」を意味する不定冠詞 a(n) は、歴史的には one の弱形、とされるからです。即ち、a(n) はもともと語尾に n を持っていた、と考えられるのです。つまり、one に n があることに説明を要しないのと同様に、不定冠詞 an に n があることにも説明を要しない、ということになります。従って、不定冠詞が子音の前で a になることこそが歴史的事件であり、「なぜ子音で始まる語の前では n がつかないのか」という問いのほうが、歴史的視点からは重要になるのです。 

 このように、ある1つの現象を歴史的視点で捉え、逆転の発想で目から鱗の発見をすることは、英語史の醍醐味の1つと言えるでしょう。とはいえ、不定冠詞について、現代の説明が完全な誤りかというと、そうでもなさそうです。このことについて、次回、共時態と通時態の観点から、考えてみようと思います。 


参考文献

堀田隆一『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』研究社、2016年

堀田隆一 「#831. Why "an apple"?」「Hellog〜英語史ブログ」  

   http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2011-08-06-1.html



helmaga

本ブログは、堀田隆一教授監修(慶應義塾大学)、埼玉慶友会で配信中のメルマガ(helmaga)のバックナンバーです。

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