#4. 化石化した on foot![2023.10配信]

 10月になり、急激に寒くなってきましたね。皆さんいかがお過ごしでしょうか。私は、埼玉慶友会(慶應義塾大学通信教育課程の公認学習会)に所属していて、そこのメーリングリストでこの記事をメルマガ配信させて頂いているのですが、予想以上に多くの方が読んでくださっていることを知り、嬉しく思っているところです。

 さて、本題です。皆さんは、「なぜ両足で歩くのに on foot というのだろう?」と疑問に思ったことはあるでしょうか。例えば、He is traveling around the country on foot.(彼はその国の各地を徒歩で旅している。)[注1]において、on foot は「徒歩で」を意味するイディオム(慣用表現)です。一般に「徒歩で」という場合、「両足」で歩くことを意味しますが、on foot では、foot「足」の複数形 feet ではなく単数形 foot が使われています。両足で歩くのに、複数形を用いて on feet といわずに単数形で on foot というのは、なぜでしょうか。この謎を紐解くために、今日は古英語期(449-1100)をタイムトラベルしようと思います。

  まず、古英語は現代英語よりもずっと屈折の多い言語でした。屈折とは、文中における語の役割を示すために語形(主に語尾)を変化させることで、例えば、現代英語の人称代名詞 he – his – him のような変化を示します。古英語は現代英語とは文法が大きく異なり、語順が比較的自由でした。このため、語自体を変化させて文中での役割を明示する文法的技法をとっていました。古英語の名詞の屈折には、「主格」、「対格」、「属格」、「与格」があり、それぞれ日本語の「〜が」、「〜を」、「〜の」、「〜に」に対応していました。[注2] 

  次に、古英語で foot の単数形は fōt 、複数形は fēt と綴られ、いずれも綴り字通りの音で「フォート」、「フェート」(以下、音変化を理解しやすくするため、便宜上、発音はカタカナで表す)と発音されました。on foot は前置詞 on の後に名詞 foot がくる前置詞句のイディオムです。古英語では前置詞の後ろには主に「与格」が使われました。複数形「フェート」の与格の発音は「フォートゥム」で、現代英語の on foot は、古英語では「オン フォートゥム」と発音されていました。つまりここで、複数形でありながらも、現代英語の on foot の綴り字にある母音「オ」が登場するわけです。中英語(1100-1500)以降、「フォートゥム」の発音は語尾が変化して、「フォートゥム」→(mが弱まり消失)→「フォートゥ」→(母音ウの曖昧化)→「フォートァ」→(母音アが消失)→「フォート」となり、単数形「フォート」と同じ音となって、綴り字も音に合わせて変化しました。これが起源となり、イディオムとして使用頻度の多い on foot は意味的な分析はなされずに、古英語の姿をとどめたまま化石化してしまい、現代に残されているというわけです。[注3]

 いかがでしたでしょうか。堀田先生の「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」では、単数形が feet になった経緯や、on feet にしてしまうと実は古英語の単数形に対応してしまうことなど、より多くの情報を得ることができます。ご興味のある方は「#602. なぜ両足で歩くのに on feet ではなくて on foot なの?」(https://voicy.jp/channel/1950/459118)を訪れてみてはいかがでしょうか。 

  英語をスコアに置き換えて天秤にかける殺伐とした世界で、私たちが「そういうもの」と教え込まれたことについて、「そういうものになった理由」を考えてみることの「贅沢さ」を楽しんで頂ければ幸いです。今回も、最後までお読み頂き、ありがとうございました。


 [注1]「on foot」、英辞郎 on the web、https://eow.alc.co.jp/search?q=%22on+foot%22

 [注2] 堀田隆一『英語史で解きほぐす英語の誤解 納得して英語を学ぶために』中央大学 出版部、2011年、12-13頁 

[注3] 「#602. なぜ両足で歩くのに on feet ではなくて on foot なの?」、英語の語源が身につくラジオ(heldio)、https://voicy.jp/channel/1950/459118


helmaga

本ブログは、堀田隆一教授監修(慶應義塾大学)、埼玉慶友会で配信中のメルマガ(helmaga)のバックナンバーです。

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